ラーメンズコント【採集】についての想像ツイまとめ①

Twitter @oyuichi_xで呟いた想像ツイまとめです。
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「俺、別に中身に興味ないから」

そうは言った、が。

中学生の頃。
興味は昆虫にあった。
コレクションとして。
きれいな状態で集めるにあたって昆虫の生態等について詳しく調べた。
だから中身にも詳しくなった。
それだけだった。

友人はいなかった。
寂しくはなかった。
必要としていなかったから。

夏休み。以前から蒐集していた昆虫のつがい標本を完成させ宿題の自由研究の課題として提出した。
クラスメイトは最初は驚き、そして気味悪がった。

ひとりを除いて。

そのひとりは熱心に話しかけてきた。

すごい、と無邪気にもてはやされた。

それ以来、よく話すようになった。

そいつは俺と違い、よくモテた。
よく笑い、よく動き、裏表もなく、周りにはいつも人がいた。
俺と他人を比べること無く、友人として話しかけてきた。

そんなだから俺は段々と他のクラスメイトとも遊ぶようになっていた。

しかしクラスメイトの‘’中身”には興味がわかなかった。

提出した昆虫標本が返ってきた。
技術が未熟だったからか、所々羽根が破けていたりしていた。
悔しかった。
もっときれいな、完全な、生きているような、そんな状態で保存したかった。

そうか、剥製だ。

それから剥製の勉強に熱を入れ始めた。

時は過ぎ。

あいつは都会へ旅立った。
俺は母校の中学で教員になった。
夜な夜な密かに剥製の研究、制作に明け暮れていた。
最初は小さなものから始め、先日はついに豚の剥製が完成した。
いい出来だ。
これくらいならそろそろ。

あいつを呼び出した。

あいつが都会で就職すると言った時は驚いた。
ずっと一緒に笑いあっているんだと無意識に思っていた。
島を出る日、見送りに行った。
少し、寂しかった。
いなくなってからの日々、ずっと頭の中に居た。
ずっと傍にいてほしかった。
あの時のまま、ずっと。

俺の、唯一の友人。親友。

久々にあったあいつは昔と変わらぬ溌剌とした笑顔でこちらに向かって手を振った。

健康状態は良好。
体型は太過ぎず細過ぎず。
良い。

ここにいることを知るのは俺、ただひとり。
完璧だ。
胸が高鳴った。

標本を褒めてくれたあの日のことを鮮明に思い出した。

そばにいてくれないのなら。
この手で離れられないようにしよう。
あの時のままの心、今のままの完全な状態で。

お前は、俺の、最高傑作になる。

独り言を言いながらウロウロ動き回るプリマをじっと息を潜めて監視するジャック。
まだだ。
下手に動いたら逃げられるかもしれない。
タイミングを見計らって…今だ!

睡眠薬が効き始め意識が朦朧としてきたプリマの背後から音もなく近づき、予め奪っておいたプリマの上着を覆いかぶせる。

目の前が暗くなったからかプリマは完全に気を失った。
捕獲成功。
あとはいつも通り、剥製にするだけだ。
初めての人間の剥製。
しかもプリマだ。
興奮した。

自分より背の高いプリマを何とか卓球台の上へのせた。

さあ、始めよう。

あれから随分時が過ぎた。
剥製はとても良い出来だった。
プリマの前に座り三角フラスコでチビチビと酒を飲むのが日課になった。
毎日眺めていても全く飽きない。

プリマの失踪宣告がなされたらしいと風の噂で聞いた。
プリマの両親によりひっそりと遺体のない葬儀があげられた。

仲の良かった同窓生。
マドンナももちろんそこにいた。
東京のプリマの彼女らしき人物も参列していた。
皆、心から悲しそうだった。
泣いていた。

皆、プリマが好きだった。

ジャックは終始俯いていた。

これで、これで本当に。
プリマは俺の。
俺だけのモノになったのだ。

葬儀の帰り道。
足取りは軽い。
大声で歌いながらスキップしたい気分だった。
さすがにしなかったが。

いつもより少しいい酒を買って帰宅した。

いつも通りプリマの元へ行き手入れをし、そのまま目の前に座り込んだ。

プリマと最後に話したあの日。
懐かしい。
今でも鮮明に思い出す。

あの日は久々に2人で卓球をしたんだ。
唯一共有した趣味。
最初はやっぱりプリマが誘ってきたんだっけ。
優雅な身のこなし。
俺にはない、プリマの持ち味だ。

『通称‘’切り裂きジャック”は健在だな』
優雅なプリマに勝つために密かに練習したんだよ。
気付いてくれて嬉しかったなあ。

プリマ、東京楽しいか?
『うん、楽しくやってるよ』
プリマは何処ででも上手くやって行けるんだよな。

『ありがとな、東京に出た俺を心配してくれて』
ありがとな、東京に出てもこうやって俺に会いに来てくれて。

『お前は正直なやつだな』
お前は負けるよ。眩しいな。

『こういうんだろ?』
俺のくだらない意地に付き合ってくれるのはお前だけだ。
良い奴だよな。

『変わってねえな』
そう、俺は全然変わらない。
お前も、全然変わらない。
変わらず、輝いてる。

『花屋』
似合うな。
似合いすぎだよ。いいな。

『人生ってのはそのまんまでじゅうぶん面白いもんなんだと思うんだ』
いい人生を歩んできたんだな。
中々そんな言葉言える人間いないぜ?
本当に、尊敬するよ。

『彼女の方はどっか変わった?』
マドンナは本当に綺麗な人間だ。
お前に出会ってなかったら彼女を使ったかもしれないな。

『徹夜で棚卸し』
『お前がそう言えって言ったんだろ』
そう、俺が言ったんだ。
お前を俺だけのものにする為に。
まんまとノってくれた。
本当に素直なんだよな。

『お前ってさ、彼女のことどう思ってたの?』
綺麗な人。本当に、それだけ。

『今でも覚えてるよ、お前の作った昆虫の標本千匹、五百種類つがい。あれすごかったもんな』
覚えててくれてありがとう。すごく嬉しかったよ。お前だけだったんだ、褒めてくれたのは。
あれが全ての始まりだったんだ。
初めて、少しだけ、人間の中身に興味が湧いたんだ。

『てっきりレベルアップしてさ、動物の剥製くらい作ってると思ってた』
ドキッとしたよ。妙に勘が鋭い所があるんだよな。どうにか悟られずに済んだけど、ほんとすごいよお前は。かっこいいよな、憧れる。

プリマをひとりにした。
外に出る気を無くすためにコートを持っていった。
わざとノートの入ったカバンを置いていった。
あれだけヒントを残せば勘のいいプリマはやがて俺の目的に気づくだろう。

本当は薬が効くまで隠し通すつもりだった。
しかし、知ってもらいたかった。

俺がお前を剥製にしたいこと。
お前じゃなきゃダメなこと。

「俺、別に中身に興味ないから」
そうは言った、が。

嘘だ。
俺は興味があった。
プリマの中身にだけは。
プリマの心は知りたくなった。

俺の、唯一の友人、親友。

お前はたくさん教えてくれた。
出会ってから今までずっと。

だから、俺の事も知って欲しくなった。
知ってもらった上で、剥製にしたかった。
外側だけじゃなく中身も全部、俺のモノにしたくなった。
お前の中身を全て俺で満たしたかったんだ。

剥製は完成した。
見事な出来栄えだった。
俺の最高傑作。

俺は今から。
お前は今から。
ずっと一緒に生きていく。

おわり




想像補足。
ジャックは幼少期から昆虫採集に夢中になっていた。
父から与えられた採集キットがきっかけであった。
元々ひとり遊びが得意だったジャック。家の周りにはバッタ、コオロギ、チョウ、セミ、クワガタ、カブトムシ等昆虫は至る所に居た。
島の地主の息子。
父は自分と遊んではくれなかったが欲しいものはなんでも買ってもらえた。
ジャックはそれで満足だった。

中学に上がった初めての夏。
友人はいなかったがいじめられるということもない、空気のような生徒だった。
昆虫採集にますますのめり込んでいたジャック。

夏休みの宿題の自由研究。
標本を完成させ提出しようときめていた。

昆虫千匹、五百種類つがい。
見事な出来栄えだ。
毎日適当に生きているクラスメイトを驚かせることができる。
俺は学校の奴らよりすごいんだ。

だが、想像していた反応とは違った。
皆、気持ち悪いと言いますます遠ざかった。

ふん。
皆この標本の凄さ、美しさがわからないんだ。
かわいそうな奴ら。

ただひとり、違う反応を示した奴がいた。
「これすっごいな!」
冷やかしではない、心の底からの賞賛だった。
とても嬉しかった。

その時初めて、心が動いた。
それは友情か愛情か他のものか、それはわからなかったけれど。
とにかく、惹かれた。
輝く笑顔。誰にでも気さくに話しかけて笑い合える。

決して人を馬鹿にしない。なにより俺に、俺の標本に興味を持ってくれた。
ジャックはプリマがとても好きになった。
プリマに憧れた。

昆虫採集は続けた。
だが、子供には限界があった。
地元に生息する虫はだいたい取り尽くした。
他の場所に行ってみたかったが1人で島を出たことがなく、不安だった。

親は何処にも連れて行ってくれない。
子供に興味がなかった。
プリマが褒めてくれた標本。
あれが最初で最後の最高傑作だった。
あれ以来放ったらかしにしていた。
すると、埃まみれになって虫も傷んできた。
まだまだ下手くそだった。
もっと綺麗な状態で保存したい。

その為にはどうすればいいのだろう。
考えながら家の中をウロウロ歩き回った。
客間でふと目線を上げた。
壁には鹿の剥製が飾られていた。

これだ。剥製だ。
剥製を作ろう。
好きなものをそのまま、きれいな状態で保存するには剥製が1番いいんだ。

そうと決めると早速剥製について調べた。

昆虫採集を始めた当初の気持ちが蘇った。
楽しい。

プリマの誘いで卓球を始めた。
全く興味はなかったがプリマが熱心に誘ってくれたので嫌々ながら付き合った。
だがやっていくうちに楽しくなった。
プリマはとても優雅な身のこなしだった。
だが球は速い。
不思議だった。
負けたくない。

密かに練習を重ねた。
プリマがあまり使わないカットで対抗した。
元来負けず嫌いな性格のジャック。
興味を持つとぐんぐんのめり込み成長していった。
ジャックというあだ名はこの時プリマが付けてくれた。
カッコよくて気に入った。
プリマというあだ名はジャックがつけた。

優雅な動きにピッタリだ。
プリマも気に入ってくれた。
嬉しかった。

中学3年に上がった頃。
プリマが東京に出ると言った。
驚いた。
プリマはずっと俺と一緒にいると思っていたから。
プリマが居なくなる。
想像すると胸にポッカリ穴が空いたような気分になった。
プリマ。
俺のプリマ。

俺を誉めてくれたプリマ。
俺を認めてくれたプリマ。
俺だけに見せてくれた笑顔。
俺を親友だと言ってくれた。
プリマは俺のモノなのに。
なぜ遠くへ行くのだろう。
プリマは変わってしまったのか。

わからない。
プリマから離れたくない。
プリマをずっと傍に置いておきたい。

今までと変わらずずっと。
そのままの。きれいな状態で。

剥製だ。

剥製にしよう。
そうすればずっと、永遠に。

そして時は過ぎ。
計画はついに実行されたのだ。



標本をきっかけにプリマと仲良くなったジャックは少しの期間昆虫採集から遠ざかった。(最初はプリマと共に昆虫を捕まえに行ったりもしたが卓球を初めてから遠ざかり始めた。)
その間放置されていた標本は劣化していき久々に見てみるとボロボロになっていた。
完璧だと思っていただけに残念だった。
同時に腹立たしくもあった。
俺としたことが。悔しい。
もっと完璧なものにしなくては。

といった具合かなと思います。


以上 @oyuichi_x 呟きまとめ

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採集のあと | 九条湯壱 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16129581