KAJALLAコント【しあわせ保険バランス】についての想像まとめ②

しあわせ保険バランスを元に想像したお話(素案段階)です。
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俺の人生は不幸続き、いいことなんてひとつもない、死んだ方がマシ。でも自殺は怖い。
事故にでも遭うかいっそ誰か殺してくれないか。

そんなことを考えながら今日も虚無な日々を生きている。

ラジオを何気なく聞いているとあるCMが耳につく。
『さあ、ラッキーでアンラッキーを埋め合わせましょう!』

CMが妙に気になりつい店に足を運んだ。

保険について説明を受けた。
つまり不幸が多いほど幸せも大きくなるって事だな。オプションで過去のアンラッキーと保証の対象になるらしい。

俺の幸せは『死ぬこと』つまりこの保険に入れば今までの不幸(アンラッキー)を使って幸せ(ラッキー)に、つまり自動的に死ねるって事じゃないか。すごい、正に俺が求めていたものだ。

「特に質問が無ければ説明はこれで終了になりますが」
メガネをかけた従業員(メガネさんと呼ばれていた)の言葉に食い気味に
「あ、はい、契約します」
と答える。
「では、こことここに印をお願いします」
「はい」
リズミカルに印鑑を押す。
「…はい、これで契約成立となります、おめでとうございます。当店を一歩出た瞬間から保険が適用されますよ」

ごくり。
店を出た瞬間に…俺は、死ぬ。

ニコニコと作り笑顔を浮かべるメガネさんを横目に意を決して店の扉をくぐる。

………。

…死なない…。

メガネさんが血相を変えて俺の元へ飛んでくる。
「死なない!?何故だ…保険は適用されているはず…!」
なにやら書類をガサガサとめくっている。
「まさか…あなた、死にたいと思ってました?」
「はい…えっなんでそれを知って…!?」
「はあ…やはり…」
メガネさんは深くため息をつき、実はこの保険…と説明を始めた。

メガネさんが言うには、人間は普通生きているだけでラッキーだから保険が適用されるとアンラッキーになって死ぬが、俺の場合、『俺の生きている状態』というラッキーが他の人…飢餓の子供等に使われ、『死んだ方がラッキーと思っていた俺』はラッキー状態からアンラッキー状態へ、つまり死なずに生きている、ということらしい。

ラッキーとかアンラッキーとかを決めているのはメガネさんなのかな。

なんだか頭がこんがらがって呆然としている俺の前でメガネさんともう1人の従業員(システムさんと呼ばれていた)がコソコソ話している。なんだか慌てているようだ。

「どうします?まだ状況がよくわかってなさそうですが…」
「保険が効かないなんて言いふらされでもしたら…よし」

メガネさんが俺の前に仁王立ち。
「お客様には死んでいただきます」
「……ん?????」


あれから俺は今までの生活を捨てた。
クソみたいな仕事、借りていたボロアパートの一室、惰性で付き合っていた友人、持ち物、自分の名前。

俺は、社会的に死んだ。
そして今。

2人分のお茶を給湯室で入れ、盆に乗せ運ぶ。
最初は慣れないのと緊張でよくこぼしたりもしたが、今は誰よりも美味しいお茶を入れられる自信がある。
と言っても従業員は俺を含め3人だけだが。

「あんた、お茶彦っていうのかー!!」

妙にテンションの高いお客様に名前を呼ばれ俺は元気よく返事をした。今までの俺とは正反対の、溌剌とした声で。

「はい!」

―――
おわり

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しあわせ保険に加入した男は死にました。 | 九条湯壱 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14550403